【富高地域】豆腐店について

<豆腐屋>【富高地域】

「昔の人はなんでも自分で作った」と古老は語ります。豆腐もそのようです。豆腐を作る際に使う、大豆を挽く(ひく)ための道具「石臼(いしうす)」が、昭和初期ごろまでの富高地域の家庭には当然のように置いてあったといいます。しかし時代の流れと共に、豆腐は豆腐屋で買うようになります。戦後(昭和20年代~30年代)の話ですが、店頭で注文が入ると、お店の人が水の中から豆腐を引き上げて希望の大きさにカットし、お客さんが自宅から持参したボウル(容器)の中に手渡しで入れてくれたものでした。現在ではそのような昔ながらの光景を目にする機会はなくなり、スーパーに行けばパック包装された衛生的で長期保存できる商品を手軽に購入できるようになりました。

ここでは、日向市の中の「富高」地域における代表的な豆腐店を幾つかご紹介します。


【「豆腐屋」編 追記その1】

この項目はあくまでも「富高地域」における豆腐屋さんについてのお話です。日向市の他の地域、たとえば細島や平岩、美々津や東郷などの豆腐屋情報は不明です。またここで取り上げたのは「豆腐製造の専門店」についてであり、食堂や旅館、仕出し屋(惣菜、弁当)などにおける豆腐を使った料理の提供などは、先に紹介した製造販売店「治田豆腐」出現よりもっと以前からみられたことでしょう。一つの手がかりとして、以下のエピソードをご紹介します。

▼大正期の半ば(※大正7~8年ごろ)、富高に住んでいたある若者が指物師(さしものし)となるべく、幸脇(さいわき)にいる親方の自宅で丁稚奉公(でっちぼうこう)をしておりました。指物(さしもの)職人とは家具を製造する職人のことで、その時代は師匠のもとで住み込みで修行(※働きながら学ぶ=「丁稚奉公」)する習わし(ならわし)がありました。4年ほどかけて見習い期間を終え、一人前になりますと、修行してもらったお礼の意味をこめて、1年ほど親方の仕事を無償でお手伝いしたようです(※「お礼奉公」といいます)。そうして約5年間を経て、年季(ねんき)が明けて、ようやく独り立ちとなるのでした(※卒業のことを「年季が明ける」といいました)。

さてその若者がまだ修業期間だった頃、親方の言いつけで工具や金具を買うため細島にある金物店に時々やってきていました。早朝出発し、幸脇から歩いて細島までの往復をしました。大正7年ごろといえば、乗合自動車(※のりあいじどうしゃ:現在のバスまたはタクシー:富高付近では大正10年ごろから営業開始)は、この付近ではまだ見られず、鉄道に関しても富高駅の開業は大正10年ですので汽車での移動もできません。ゆえに、陸路における長距離移動では主に人力車や客馬車などが利用されていましたが、こうしたタクシー代わりの乗り物運賃は決して安くはありませんでした。例えば大正当時、人力車は「三者が乗るもの」といわれていたようです~「三者」とは医者、芸者、役者のことです(吉田幸保・著「移り変わる郷土と私」P.16)。自転車は明治半ばごろから比較的普及しつつありましたが、税金を払わねばならないなどお金と手間がかかるものであり、現代のように誰でも手軽に所有しているモノではなかったようです。よって大正当時、いわゆる庶民はどこまでも歩いていくのが普通でした。

そんな長い道のりの中で、彼の楽しみは赤岩川(あかいわがわ)の近くにあった茶店(ちゃみせ)で一息(ひといき)つくことでした。その小さな店で「とうふ」を食べて帰った思い出を彼は晩年までもよく覚えていました。(了)

▼<補足>自転車は、富高地域ではおそらくですが明治20年代後半ごろから見かけるようになり、明治30年代半ばごろより一般に普及していったと思われます。東京では明治6年(1873年)から始まったという車税が明治13年より自転車にも適用されるようになり、毎年それなりの高額を納税する必要がありました。所有するだけでお金がかかる代物(しろもの)でした。その国税制度が明治29年に廃止されても、一部の府県では地方税として存続しました。昭和15年には「自転車税」の名称で市町村税となり、戦後の昭和29年からは「自転車荷車税」となっていたその税金制度は昭和33年(1958年)にようやく廃止されました。そうした金銭的負担以外にも、ナンバープレートをつけねばならないという鑑札制度もあったりと、自転車を所持するだけで手続き上の面倒が多い時代が戦後直後までありました。戦前までの富高に住む女性や子供は自転車にはほぼ乗らなかったということですし、仕事においてよく自転車を利用する方や富裕な方をのぞけば、少なくとも明治・大正期の一般庶民が自転車を持たなくてもあまり困らないのでした。 (了)


<豆腐屋 編 / おわり>

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